国際石油取引の大半が米ドル建てで決済される世界的な金融体制「ペトロダラー・システム」が、米国とイラン間の戦争を背景に、かつてない脅威に直面している。
この仕組みのもとでは、石油を輸入する国々は決済のために米ドルを保有する必要があり、恒常的なドル需要が生まれている。これがドルの基軸通貨としての地位を支えている。
ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、アラブ首長国連邦(UAE)は、イラン紛争のリスクが高まる中、米国と金融セーフティーネットを巡る協議を開始した。
関係者によれば、UAE中央銀行のハレド・ムハンマド・バラマ総裁は、ワシントンでスコット・ベッセント財務長官や米連邦準備制度理事会(FRB)幹部らと通貨スワップ協定の可能性について協議したという。
この協議は、紛争でUAEのエネルギーインフラが混乱し、ホルムズ海峡経由の石油輸出にも制約がかかり、ドル流入が減少したことを受けたもの。
UAEは正式な要請には至っていないが、当局者は協議を予防的措置として位置付ける。一方で米国によるイランへの軍事行動が「自国を破壊的な紛争に巻き込み、影響が終息しない可能性がある」とも指摘した。
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同時に、すでに代替決済の動きも広がっている。4月初旬には、イランがホルムズ海峡を通過する商業船舶に対し、人民元建ての通行料を課し始めたと報じられた。
また、テヘランもこうした動きを仮想通貨にも拡大する方針を示している。伝統的な金融チャネルを迂回する戦略の一環として、ビットコイン建てのタンカー通行料も検討対象とした。
これらの動きは、ペトロダラー体制に対する構造的な脅威の拡大を示す。ただし、システムへの圧力は現在の紛争以前から存在していた。
ドイツ銀行は、ロシアやイランの石油輸出に対する米制裁が、非ドル通貨(人民元など)を使う並行取引ネットワークの拡大につながっていると指摘した。
これまでにも多数の専門家がドル支配のリスクに警鐘を鳴らしてきた。ブリッジウォーター創業者レイ・ダリオ氏は、ホルムズ海峡の安全確保に失敗すれば、ドルの基軸通貨としてのリスクが急増すると警告した。
同様にバラジ・スリニバサン氏は、イラン側の勝利がペトロダラー体制など複数の地政学的・金融的時代の終焉を早める可能性を指摘する。
一方、ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は、人民元が5年以内に世界の準備通貨へと台頭する可能性に言及している。ドル離れと多様化への投資家需要拡大が背景にある。
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こうした長期的な懸念がある一方で、短期的な市場動向は時にドルを下支えしている。米国とイランの停戦発表後、4月7日から15日にかけてドル指数は2%近く下落した。
しかし、戦争を巡る不確実性再燃で原油価格が反発し、ペトロダラー効果も復活した。
当面は地政学的リスクがペトロダラーの存在感を支えている。一方で水面下で進む構造変化が、その持続性に疑問符を投げかけている。


